いつかウェディングベル
「写真については保留にしていたのだか、社長から今回は企画発案者を起用したいとの指示があり、撮影後に社長自ら此を選ばれサイトを飾ってしまったんだ。」
我ながらなんと嘘が上手になったことか。これもみな、加奈子が何時までも俺との関係を秘密にしようとするからだ。
「社長ですか? なら、最初に何故そう言って下さらなかったのですか?」
吉富はかなり不満そうな顔をしているが、相手が社長ではぐうの音もでないだろう。
他の社員はこれで誤魔化せても加奈子はそうはいかないだろう。裏で画策するようなことを一番嫌うから。
俺はまた何か飛んでくるのではないかとハラハラしていた。
すると、案の定、物は飛ばなかったが加奈子の恐ろしい視線が俺へと飛んできた。
「専務! 話があります。 ちょっと顔を貸してちょうだい!」
俺の前へやって来た加奈子は腕を組みまるで仁王の様に立っていた。
俺には恐怖タイムの始まりだ。
加奈子にどう説明すれば分かって貰えるのか。加奈子は妻になっても、どうも仕事が絡むと俺への信用が無くなるような気がするのだが、これは俺の気のせいと言うことはないだろうか?
「ここは野次馬が多すぎるわ。あなたの部屋へ行きましょう。」
「それはいいが。いいのか?」
「いいわけないでしょう!冗談じゃないわ。今すぐに画像の変更の指示を出して。」
どうも加奈子は頭に血が上ると周りが見えなくなる傾向にある。
折角、社長命令で撮影したと皆を納得させたのに、これでは何もかもがぶち壊しになる。
「じゃあ、撮影のやり直しをしよう。それで、文句ないだろう?」
「まさか、私がじゃないでしょうね?」
「勿論、君がだよ。企画発案者は君だろ?」
すると、加奈子はその場に座り込んでしまった。
「本当に社長命令なの?どうして?こんなのダメよ。」
俺も加奈子との記念すべき結婚式の写真を会社の宣伝に利用されるのは我慢ならない。