いつかウェディングベル
動揺する加奈子をしっかり抱き締めてやると少しずつ落ち着きを取り戻したようだが、俺達の結婚式の大事な写真を勝手に使われた事への怒りが出たようだ。
「透はこのこと知ってたの?」
「いや、さっき秘書達に聞いて驚いて君のところへ飛んできたんだ。」
「本当?」
俺を疑っている目に結婚したのにまだ俺を信用していないのかと悲しくなる。もうそろそろ本気で俺を信じて良い頃だと思うのだけど。
愛し合っていても信頼し合ってはいないのだろうかと俺の心は冷え切ってしまいそうだ。
「加奈子、俺達の記念写真を知らない他人に見せる気は毛頭ないよ。それは分かってくれるよね?」
「ええ、それは私も同じ気持ちよ。だから、あの写真が会社のサイトに利用されたことが悔しいし悲しいの。私達の気持ちを無視されたようで。」
「俺も同じ気持ちなんだよ。だから、親父に直談判しようと思っている。加奈子はここで待っていて欲しい。」
加奈子の性格では大人しく待つことはしないのだろう。
俺の言葉など聞き入れやしない。待っていて欲しいと今話したばかりなのに早速拳を握って勢いよく会議室から出ようとしていた。
俺は親父と加奈子のバトルなど見たくないのに。
俺の可愛い花嫁が仮にも会社の社長である親父に盾突けばもっと面倒なことになるのは目に見えている。
「加奈子、いいね? 君はここでみんなと待っているんだ。」
「私の写真でもあるのよ。勿論、私も直談判に行くわ。」
「それは夫である俺の役目だろ? しかも、君はまだ花嫁だ。花嫁は大人しく夫を待っていてくれ。」
ここは色目を使うところではないが多少のことは大目に見て加奈子をその気にさせよう。
そうしなければ俺の嫌な予感が当たりそうで頭が痛くなる。