いつかウェディングベル
「何をにやけている。社長室へ惚気に来たのか?」
「そ・・・そんなんではありません。面倒な女だと思っただけです。」
「その女に惚れたのはお前だろ?」
「はあ、まあ。あれでいて加奈子は可愛いですから。」
「それで、ハネムーンベビーは期待できそうなのか?」
「そりゃあ勿論!・・・・・って、何言わせるんですか!! そんなこと言いに来たんではないです!! 俺は、写真の交換をしたく」
親父とこんな会話をするなんて恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいだ。
そもそも、人の写真を勝手に使うんじゃねえよって言いたいし、仕返しに親父達の結婚式の時の写真でも使おうか?
「そんなに写真が気に入らなければさっさと交換すりゃいいものを。今回の企画の最高責任者はお前だろ?なら、私に許可を求めなくても写真の交換は出来るだろう?」
確かに、それはそうだけれど。でも、一応今回の写真の掲載を決定したのは社長だから一言の断りを入れるのが筋だろう。
俺が勝手に写真の交換でもしようものなら、その時は社長権限で何をされるか分かったものじゃない。
「社長の采配で掲載された写真ですよ? 専務の独断と偏見で写真の交換を求めることが出来るのですか?」
「無理だな。本当は誓いのキスの写真を使おうかとも思ったんだよな。お前達の一番幸せな顔が写っているんだ。あれはウェディング部門で使うには最高の宣伝効果があると思うぞ。」
「我が社にはウェディング部門はありませんが?」
すると、親父は机の上に置かれていた資料をいきなり伏せてしまった。
さっきまで置かれていることにすら気付かなかった俺だが、ウェディングの話になるなり資料を裏返しにするのは怪しすぎる行動だ。
「その資料を見せて頂けませんか?」
「いや、これは私の趣味でだな。」
「ハネムーンベビーが出来ても一生孫を抱かせませんよ? それでもいいのですか?」
流石に孫には敵わないようだ。渋々と資料を俺に手渡してくれた。
するとそれは俺の予想通りにウェディング部門を立ち上げる企画書だった。