いつかウェディングベル
「社長、専務の私には一言の相談もありませんでしたが?」
「お前達は、その、結婚式にハネムーンと大変な時期だったし、それに、ほら、ハネムーンベビー作るのに忙しいだろう?」
「いい訳はそれだけですか? とにかくこの資料は預かります。今後の社運にも関わることですし私の時代に大きく影響を与えるものですから社長の一存ではこの企画を勧める訳にはいきません。」
ったく、親父は何を考えていることやら。俺と加奈子の時代がもうすぐやって来ると言うのに、勝手な事をされては困る。
しかし、ウェディングドレスか・・・・・加奈子との披露宴をどうしたものか考えてしまう。
関係者を集めた披露パーティをどうするか本格的に加奈子と話し合う必要がありそうだ。
だが、その前にこの新規事業についてをどうにかせねば。
この企画書を見る限りこの書類の作成はそう古くないが最近でもない。俺と加奈子が再会するほんの少し前の頃だ。
それもそうだろう。新規事業をここ数日で企画出来るほど事業は甘くない。
しかし、このウェディング部門と言うのは一体誰が提案したのか、企画書をパラパラと最後まで確認していくと最終頁に提案者についての記載があった。
そこには、商品管理部門・販促課の田中とある・・・・・
「ちょっと待て。それは加奈子なのか? いや、しかし、この日付だと平社員の加奈子の提案書などを社長である親父が受け取るはずはない。という事は、結婚後、俺に内緒で親父と二人で話し合っていたとなる。」
第一、こんな大事な内容は息子であり専務である俺と社長である親父が話し合うものだろう?
それを息子嫁の加奈子と二人で話を煮詰めていたと言うのか?
親父も親父なら、加奈子も加奈子だ!
夫である俺を差し置いて社長である親父に売り込むとは。
そんなに俺は信用できない夫なのか?
そんなに俺では夫として認められないのか?
まさか、以前、加奈子を捨てた事を根に持って俺を未だに許せずにいるのか?
俺は怒りより未だに信じて貰えないことの方が悲しくて加奈子が俺の気持ちに気付くまで抱きしめていたいよ。