いつかウェディングベル

加奈子からの信用を得ることが出来ない悲しさもさることながら、俺ではなく親父を頼った加奈子の神経を疑いたくなり俺は怒りを覚える。


だから、つい、頭に血が上ったまま販促課へと足早に向かってしまった。


加奈子は冷静さに欠けるとその性格を改めさせようと考えていたが、この時の俺も加奈子同様冷静さに欠け感情の赴くままに動いてしまっていた。



販促課へ行くまでの間に、今、社内で噂されている「専務の道ならぬ恋」の為に、女性社員からの哀れな視線を一身に浴びている様で更に怒りは増していく。



販促課へ行くと更にその視線は熱いものに代わり、一身に浴びるのは眼差しだけでなく憐れむ言葉までもが俺を襲う。



「何か用ですか?」



用がなければ来てはいけないのか?と、つい、ムキになって言い返したくなるのはまるで子どもの様だ。


自分で自分の分析が出来ている間はまだ大丈夫だ。平常心でいられているのだと自分に言い聞かせ心を落ち着かせていたが、吉富に言われているかと思うと平常心でも居られない。


加奈子の周囲をストーカーの様に張り付く吉富を俺は気に入らない。



「吉富君、その後の様子はどうだ? 売れ行きは順調なのか?」


「問題ありません。予想通りの売れ行きですし倉庫の方の管理もかなり改善され今は問題はないようです。」


「なら安心したよ。今後も頼んだよ。」



会議室で加奈子とのラブシーンを目撃されてからと言うもの、吉富の俺を見る目の鋭いことにかなり俺を敵対視している。


企画中は元カレによるDV防止の為に俺に加奈子を任せろと言ったものの、その俺が加奈子に手を出しているのを見たのだから吉富としては裏切られた気分だろう。


そもそも、元カレのDVと言う嘘の発生源がどこなのか突き止めたい気分だ。


俺はDVしたことはないし、加奈子に酷い仕打ちをしたこともない。


まあ、政略結婚の為に仕方なく別れた事実は免れないが・・・・


だけど、あの時は俺も十分傷ついていたんだ。加奈子だけが悲しんだのではないのだから。



「それで、田中が戻るまで待っているつもりですか?」



吉富の忌々しい態度が気に入らないが、考えてみればこの男は加奈子に振られた哀れな男なのだ。

< 249 / 369 >

この作品をシェア

pagetop