いつかウェディングベル
「二人ともやめて!!」
加奈子の止める声に俺はハッと我に返り、吉富を殴る拳を振りかざしたものの手を下ろした。
吉富もまた加奈子の声に反応したのか手を止めた。
俺と吉富はお互いに顔を見合わせるとその場に座り込んだ。
お互いに相手を何度か殴ったことと腹の内を見せたことでどうやら気持ちが少しは収まってきたようだ。
これだけで納得がいかないのであれば俺はもっと殴られても構わない。だけど、これ以上殴りあいをすれば加奈子を悲しませるだけで解決にはつながらない。
吉富もこれで納得してくれると助かるのだが。吉富の表情を読み取ろうとしても今の吉富の顔を見ても俺にはその感情は読み取れない。
悲しげな表情をするかと思えば、殴ってスッキリしたような顔も見せるし、どう捉えて良いのか今一つ分からない表情に俺は戸惑うばかりで、どう話しかけていいのかも悩んでしまう。
その場に座り込んだ俺達が動く様子がないとみると加奈子は俺のところへと駆け寄って来た。
そして心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
こんな加奈子の俺を心配する姿を見れば益々吉富の嫉妬は膨らむばかりのような気がしたが、吉富は俺達を見るといきなり笑い出し立ち上がった。
そして、両手を額につけるとそのまま髪を後ろへとかきあげた。
「完全に遅刻ですね」
「それより医務室へ行けよ」
「顔を洗えば十分ですよ」
吉富はドアを開けて建物の中へと入って行った。その様子を二人で見ていたが、吉富がいなくなると力が抜けて俺は座り込んだままでいた。
「大丈夫?」
「あの野郎、思いっきり殴りやがって・・・・・ち・・・」
「喧嘩なんかするからよ。口の中切っていない? 血が少し出てるわよ。」
殴られた時に口の中を少し切ったのだろう。少し痛みもするし出血も見られた。それよりも頬の痛みが強く左側の頬が少し腫れていた。
「医務室へ行きましょう」
「手を貸してくれ」
加奈子にこれ以上心配かけない様に俺は一緒に医務室へ行くことにした。