いつかウェディングベル
俺は加奈子の付き添いで医務室へと行き簡単に治療をしてもらった。怪我の具合を見て明らかに喧嘩をしたのだと気付かれたが、個人的なことだからとここだけの秘密にしてもらった。
当然の如く、会社への報告の必要もないし俺が誰と喧嘩をしたのかを知る必要もない。
しかし、俺と吉富の顔の怪我を見れば誰もが俺達が加奈子を奪い合って喧嘩をしたのだと気付くだろう。暫くは社内で噂が絶えないだろうし興味本位の連中の好奇の目に晒されてしまうだろう。
けれど、これは自業自得というもの。今更この喧嘩を悔いても遅すぎる。
「俺は自分の部屋へ行くが、加奈子はどうする? 俺のところで休んで行くか? それとも販促課へ行くか?」
「自分のデスクはまだ販促課にあるのよ。あそこへ行くわ。」
加奈子は今の仕事を気に入っているのだろう。だけど、それも、今の企画が終了するまでのことだ。終了した時点で異動させるつもりだ。異動先はまだ決めてはいない。
だけど、異動は100%覆ることはない。
だから、それまで今の職場を楽しむと良い。
俺と加奈子は自分の仕事場へとそれぞれ向かった。俺は重役専用エレベーターから俺の部屋へと向かった為、すれ違う社員は秘書だけだ。
しかし、吉富は自分のデスクへ行くまでに行き交う社員の目に晒され有らぬ噂を立てられるのだろう。
加奈子が販促課へ行った時、吉富はトイレで顔を洗ったようだが顔に殴られた痕がハッキリ判る。
そんな吉富の周りには販促課の社員達が心配そうに集まっていた。
「もしかして、田中さんの元彼のDV男とやりあった?」
一番聞きたくない言葉を江崎に言われ吉富は顔色を変えた。江崎は事情をそこまで知っているのか?と。