いつかウェディングベル
江崎と岩下だけでは周りの野次馬の数は減らず、それどころか、吉富が女を奪い合って喧嘩したと社内で噂が広まり見物人が増える一方だった。
そこで、見かねた蟹江が吉富の前に立ちはだかり仁王立ちになって野次馬を受けて立った。
「ええい!煩い! ここにいるのは階段から転んで落ちた時に女に支えてもらっただけの吉富がいるだけだ! それを女に振られただの喧嘩しただのと勝手な憶測する者は私が許さない!! それでも言いたいヤツはここにのこれ!! 全員ぶん殴ってやる!!」
日頃の蟹江らしからぬ言葉にビックリ。野次馬は一瞬で静まり返った。
そして、蟹江が拳を握りしめた後、ぽきぽきと指を鳴らし始めると周りの野次馬は皆恐れをなしたのか急いでその場から逃げて行った。
「お前達、これ以上妙な噂たてたら訴えるわよ!!」
とどめを刺していたのは坂田だった。二人の援護射撃のお蔭でどうやら販促課は静かになったようだ。
仕事仲間がどんなに大事な存在かを改めて感じた吉富はいつの間にか涙は消えていた。
これまで加奈子に何度も断られ覚悟はしていたものの、それでも諦めきれなかった想いが今日の行動に繋がってしまった。
吉富は暫く無言のままでいたが、これ以上周りの仲間たちに迷惑はかけられないと加奈子への気持ちを吹っ切ろうとした。
「田中、もう隠す必要はなくなった。本当の事を教えてくれないか。俺もみんなもうすうすは気付いているが君の口から聞きたい。」
吉富はハッキリ加奈子に聞かされた方が諦めもつくし周りの興味本位な噂もなくなると感じた。
吉富の気持ちを十分に感じ取った加奈子はもう迷わなかった。
大きく深呼吸すると覚悟を決めた様に口を開いた。
「芳樹の父親は、専務の柿崎透です。そして、私が愛する人もその人です。」
加奈子の告白に周りは静まり返った。吉富と江崎は予想した通りだと思ったのか反応はなかった。
しかし、こんな告白が信じられなかった蟹江や坂田、岩下はかなり驚いたようで言葉を失っていた。