いつかウェディングベル
■憧れのウェディングベル
「ごめんなさい。隠すつもりはなかったんです。だけど、わざわざいう事もないと思って。だって、一度は私達別れたから。」
加奈子は捨てられた過去など思い出したくないだろうし、人に知られたくないそんな過去を関係のない者達へ話す必要もない。
だから、隠していて当然のことなのだ。
しかし、これまで一緒に協力しながら働いてきた職場の仲間には何も伝えなかった。
「ごめんなさい」
振られて一番辛いのは吉富のはずなのに、急に場は一転し加奈子がまるで悪役のような雰囲気になってしまっていた。
重々しい表情をする加奈子を見て吉富は拳を握りしめていた。
「謝る必要はないさ。誰にも知られたくない過去はある。なあ、岩下だって子どもの頃のおねしょなど人にはいいたくないだろ?」
「なんでそこで俺なんですか?! それになんで仮の話がおねしょなんっすか?!」
いきなり話を振られ、しかも、それがおねしょだったものだから岩下は急に怒り出した。
すると、そんな岩下を宥めたのが江崎だ。
「まあまあ、そう目くじらを立てるなよ。」
「江崎さん!! 俺はおねしょはしてませんって!」
「はいはい、どうどうどう・・・」
ついこの前までの光景を見ているようだ。しかし、宥め役が岩下から江崎に変わってしまったが・・・
だけど、こんな馬鹿らしいことでその場が少し和んだのは確かなようだ。
江崎は岩下の背中を押しながら岩下のデスクまで連れて行く。
「さあさあ、俺達はもう関係ないんだから、仕事しような♪ 仕事♪」
江崎のそのセリフに蟹江と坂田も勘付いたのかそれぞれのデスクへと戻って行った。
部長と課長は遠目から様子を見ているだけだったが、内心はハラハラドキドキしていたことだろう。
加奈子が”専務と関係がある”となれば騒ぎの結末が気になるところで、下手な動きをして専務の怒りを買えば部長も課長も立場が危うくなると考えると保身の為にも触らぬ神に祟りなしとなる。