いつかウェディングベル
周りが静かになると加奈子は吉富にもう一度謝った。
「あれだけ助けてもらったのに。申し訳なく思っています。」
「しょうがないだろ。俺はいつか振り向いてもらえるものだと無我夢中でやってた。専務のことは何となく気付いてた。でも、相手が専務だから思う相手としては無理だと思っていたんだ。」
普通であれば一般家庭の加奈子と社長令息とでは釣り合わない縁談となり、きっと、加奈子と婚約しようとしてもいずれ別れが来ていただろう。
二人がどんなに相思相愛だったとしても、会社の繁栄の為に社長と言う立場の親父は俺達二人を別れさせただろう。
そんな俺達が結婚出来たのも、すべては加奈子が芳樹を産んでくれたから。
俺を忘れることなく辛い生活が待っていると分かっていながらも苦労する道を選んでくれたから今の俺達がある。
「もし、透と上手くいかなくても私は他の人とは一緒にはならないわ。だって息子がいるのだから。」
「だけど、君が一人で生きていけるのか心配になるだろう?」
「いいえ、芳樹がいるわ。それに、今は透もいるわ。私にはかけがえのない二人が居てくれるからもう大丈夫なの。」
加奈子のセリフに吉富は何か引っかかるものがあった。
息子は理解できるが、専務相手に大丈夫と言うのは妙だと感じた様だ。
例え息子がいても専務となれば得意先令嬢などとの縁談があるはずだと吉富は少し考えていた。
「どんなに想いあっても、専務はいずれ結婚したら田中は日陰の身になるんじゃないのか?」
加奈子は首を横に振った。そして、吉富の顔を真っ直ぐに見るとしっかり微笑んでいた。
「だって、私はもう一生幸せになれるの。透が私を幸せにしたいって言ってくれたから。」
加奈子の爆弾発言に吉富はあまりの驚きに声を失うどころか大笑いしていた。
「冗談だろ? なら早く言ってくれよ!」
「ごめんなさい。透はもっと早くに言うべきだって私を説得したのよ。でも、私がこの企画が終わるまで待って欲しいと頼んだの。」
吉富はあまりにも速い話の展開に頭では理解していたが心が追い付かないでいたようだ。