いつかウェディングベル
岩下の声に一斉に加奈子へと視線を移した。
販促課の皆に囲まれ、しかも、まだ騒ぎが一段落していない様子に他の部署の女子らもチラホラと様子うかがいをしている。
加奈子は苦笑すると少し照れながら皆に言った。
「もうしました」
加奈子の言葉に江崎と岩下はかなり引いた顔をしたし、蟹江と坂田に関してはまるで乙女のような喜びに満ちた顔をしていた。
自分の事の様に笑顔になる蟹江と坂田以外はあまり歓迎するような表情ではない。
特に部長と課長は真っ青な顔をしてオロオロしていた。
「田中君・・・いや、あ・・・、その。確認してもいいかね?」
「部長、隠し事をしていたのは謝ります。現場を混乱させたくなかったんです。」
「という事は・・・・・、ああ、もう、ハッキリ言いなさい!結局、君は専務とどう関係するんだ?!」
「専務の柿崎透と結婚しました。」
加奈子の追い打ちをかけるようなセリフに部長と課長はかなり青くなり呼吸までも乱れていた。
そして、「どうしよう、どうすればいい?」と、二人でオタオタするばかり。
そんな二人を見て周りはかなり呆れ顔をしていたが、加奈子は部長も課長も根は悪い人ではないと知っている為、これ以上二人を不安にさせるつもりはなかった。
「何も問題ありませんよ。専務はお二人が私に良くして下さったことは知っていますし、それは社長も同じです。ただ・・・・」
「ただ?」
「問題があるとすればもう少しこの課の業績を上げることでしょうか?」
部長や課長にとって一番言われたくないセリフを言われたに違いない。
二人はかなり落ち込んだ状態でそれぞれのデスクへと戻って行った。
ちょっと可哀想だったかな?と、加奈子は笑っていたが、正直なところもう少し売り上げが上がればとも考えていた。
企画は悪いものではなく売れ行きも順調だけれど、他の部署に比べ飛び抜けた売り上げも問い合わせもなく平均的な業績で終わりそうだった。