いつかウェディングベル
部長と課長がいなくなると、加奈子は今度は蟹江と坂田に質問攻めにされていた。
「さあ、白状なさいよ! 何時から専務とそんな関係になったのよ!」
「そうよ。自分だけズルいわ。専務を狙っている女子社員は多いのよ。」
蟹江も坂田もかなり悔しそうな素振りをしながらも、顔は満面の笑みでかなり喜んでくれている様子だ。
「えっと、いつからって言われても困るんですけど。だって、学生時代の付き合いだったから。」
「なになに、その当時って専務はもう社会人なわけでしょ? ということは、社会人が学生に手をつけたのか♪」
坂田はかなりのニヤケ顔をしながら加奈子に突っかかる。
加奈子は昔話や二人の交際などについては恥ずかしくてあまり話したい風ではない。
すると、益々興味を掻きたてられた二人は加奈子に今にもくっ付きそうな距離まで迫り話を聞きだそうとしていた。
「専務が元彼っていう事は、田中さんって専務にDV被害あっていたの?! 専務ってそんなことしてたの?!」
「違います!! 彼の名誉の為にも言いますけど、そんなこと一度だってありませんでしたよ!」
加奈子が名誉挽回しようと必死になって説明しようとすると、加奈子の「彼」発言に蟹江も坂田も顔を真っ赤にして頬を両手で覆っていた。
「やっだー 彼だってよ?! 彼って。」
「ですよね? 蟹江さん!! これって絶対惚気ですよね?!」
蟹江と坂田の過剰なまでの反応に加奈子は絶句していた。
「じゃあどうしてそんな噂が流れたのかしらね?」
「あ、ねえ、蟹江さん。もしかして、専務って激しすぎてDVと勘違いされたのかもですよ!」
「やっだー なにそれ? それって完全に変態じゃない!」
蟹江と坂田は良からぬ話に盛り上がってしまって加奈子の話など聞いていなかった。
そして、あまりのアホらしさに加奈子は二人の会話を無視し自分のデスクへと戻って行った。
すると、この二人の会話を聞いていた他の部署の女子社員らが噂として社内に広めていった。
この日から、「専務はサディスト」と噂されてしまった。