いつかウェディングベル
その夜、帰宅した俺は浴室に直行し風呂に入った。
本当は加奈子に問い質したい気持ちでいっぱいだったが、先ずは頭を冷やそうと風呂へ直行した。
ぬるま湯に浸かり、生温いシャワーを浴びた後に加奈子と話をしようと思った。
ところが、風呂からでた俺の前に現れたのは親父だ。
俺の顔を見るなりニヤリと笑った親父が不気味に感じた。
「専務のスケベ♪」
壁に隠れてこっそり言う親父に「テレビの見すぎだろう!」と、怒鳴りたくなった。
きっと、社の女達の噂を真に受けたのだろうが、何故俺があんなことを言われなきゃならないんだ?!
秘書らからも冷たい目で見られたし、行き交う男社員からは羨望の眼差しで見られ、女社員からは卑猥な目をされた。
いったい俺が何をしたからそうなるのか俺にはさっぱり理解できなかった。
風呂から上がった俺はスウェットスーツのパンツだけで上半身はランニングウェア姿でダイニングへと行った。
濡れた髪を乾かすのにバスタオルを頭から被りながら。
イライラしていた俺はバスタオルで頭をクシャクシャにかきながらやって来た。
「あらあら、坊っちゃん、髪は洗面所のドライヤーでしっかり乾かして下さいな。なんなら、昔のように私が乾かして差し上げましょうか?」
家政婦の増田は何度言っても俺を「坊っちゃん」扱いする。
「芳樹もいるんだ。いい加減その坊っちゃんはやめてくれ。」
すると、さすがに増田にも理解できたのか芳樹の手前俺への呼び方も変えるつもりのようだ。
少し頭を捻って考えていた。
「大丈夫ですよ。芳樹坊っちゃんの前では透さんとお呼びしますから。あ、それとも、若旦那様が良いのかしらね?」
「透でいい!今度からは名前で呼んでくれ。」
俺は帰宅してもちっとも心が休まりそうにない。
やはり、俺の帰る場所は加奈子のいる所だ。
「そう言えば、加奈子は?姿がないが。芳樹を寝かしつけてるのか?」
俺の声が聞こえたのか加奈子がダイニングへとやって来た。