いつかウェディングベル
「はい、会社の備品を壊したんですから。会社は社長のものでしょ? 当然のことをしたまでですが。なにか?」
私は常に透には冷たい女を演じてやる。
だって、捨てた女に優しくされたら困るでしょ?
復縁迫られると思いたくないでしょ?
だったら近づかないのが一番なのよ。
「これ以上揉め事を大きくしないでくれ」
昔からそうだった。
透は自分にとって都合が悪ければ何でも穏便に済まそうとしてしまう人。
私が今回ひと騒動起こせば透にとってはマイナスとなる。
社員を掌握できずに企画会議一つまとめることができない能無し扱いされたくないのよね?
結局、自分が可愛いのよ。だから、私がどうなろうとも透は痛くも痒くもないんだから。
「それも今週までですから。ご安心ください、専務。」
だから、もう、これ以上私に近づかないで。
「専務、田中君の辞表が受理されて来週からは彼女は出社しませんので。」
「受理された? 部長がそう対処したんですか?」
「いえ、人事部から連絡がありました。」
「バカなことを・・・」
部長から話を聞くと透はかなり困った顔をしていた。
部長や課長も自分の保身の為に私には辞職することを思いとどまるように言われた。
きっと、透も同じ気持ちなのだろう。
自分の個人的な感情で企画メンバーから私を外したのだから。
担当者である吉富さんの意見を聞かずに一方的に行った自分を守るためなのだろう。