いつかウェディングベル
色んな事が思い出されてしまうと、荷物の整理なんて思うように捗らない。
資料の一つ一つに大事な思い入れがある。
こんな調子で会社を辞めるなんて私には本当にできるの?
きっと、辞めた後、透に捨てられたときみたいに消沈してしまうのだろう。
でも、今回は芳樹がいる。いつまでもこんな気持ちのままではいられない。
生活が懸かっているのだから。芳樹の為に早く次の仕事を探さなければいけない・・・
荷物整理がこんなに辛いものだとは知らなかった・・・
こんなに悔しくて悲しくて虚しいことは、きっと、このさき、未来には私には訪れないだろう。
「田中さん、お昼ご飯食べに行かない?」
いつの間にかお昼休みの時間になっていた。
蟹江さんが気を使っているのかランチへ行こうと誘ってくれた。
ただ、今はそんな気分にはなれなかった。
「ごめんなさい、今、ちょっと手が離せなくて。他の人と一緒にどうぞ行って下さい。」
「あまり無理しないほうがいいわよ。」
蟹江さんにしっかり迷惑を掛けてしまった。
こんな私の心配をしてくれるなんて嬉しい。
でも、これも、あと少しのこと。もうすぐ私はこの会社を辞めるのだから。
流石に昼食時間ともなるとみんな食事に出かけ部屋の中には誰もいなくなる。
フロアの周りを見渡しても人の影は少ない。
社員食堂へ行くものもいれば、外へランチに出かけるものもいる。
楽しそうにお喋りしながらランチを取りに行く若い女性社員を見ていると羨ましくも思う。
本当ならば、私もああやって毎日を楽しめただろうに・・・
そう思と虚しさが込み上げて来てしまう。
こんな辛い気持ちになった時は芳樹の顔を見て励まされたい。
「よしっ!」と、自分に掛け声をかけて椅子から立ち上がりデスクの引出しからバッグを取り出した。
すると、フロアを歩く足音が聞こえてきた。
誰か忘れ物でも取りに来たのかと思い、音がする方を見てみるとそこには透の姿があった。