いつかウェディングベル
「何なんだよ? もう俺を驚かすものってないって言ってたのに。」
「驚いた?」
「心臓飛び出るくらい驚いた。」
俺の心臓の音が加奈子に聞こえるんじゃないかってくらいもの凄い音を立てている。
美味しそうな果実が目の前にベッドに座っているんだ、それも当然だろう。
思わず唾を飲み込んでしまった。
「美味そう」
「明日は特別に私の仕事は休みなの。」
「結婚式の準備は大丈夫なのか?」
「打ち合わせは済んでいるわ。それに、皆からのサプライズもあるそうだから私もあとは結婚式当日に出てくるようにって蟹江さんに言われたの。」
「じゃあ、結婚式まで俺達ここに?」
「芳樹は任せろってお義父さんたちに言われて、だから、任せてきちゃった。」
まるで今日が新婚初夜のようだ。
加奈子と二人っきりでこんな豪華なスウィートルームに泊れるなんて。
しかし、こんな俺達の生活を知ったら加奈子の義父に怒鳴られそうな気がする。
義父には絶対にこの夜の話は秘密だな。
「それで、今すぐベッドに入った方がいいのかな? それともシャワーが先の方がいい?」
「透の好きなように。これまで随分寂しい思いさせちゃったから。」
「加奈子は寂しくなかった?」
「もの凄く寂しかったよ。」
加奈子の目には涙が溢れていた。
急な話の展開で慣れない仕事に毎日神経をすり減らして、加奈子は相当辛い毎日だったかもしれない。
俺はそんな加奈子の手伝いを全く出来なかった。
だけど、結婚式が終われば俺も加奈子の仕事を手伝いたい。
少しでも支えになりたいと思っている。
「今夜はずっと一緒にいられるんだ。もう、寂しくはないよ。」
その夜、俺は加奈子をしっかり抱きしめて眠った。
久しぶりに加奈子の温もりを感じながら。