いつかウェディングベル
「専務、会場の説得にお力を貸してもらえませんか? 蟹江さんと何度か交渉に行ったのですがOKもらえないんですよ。」
「江崎、お前でも口説けない女がいるんだな。」
「俺にも苦手な女はいますよ。」
江崎は営業させてみれば思ったより上手に相手の心を掴み契約を取り付ける。
相手の心理を読むのが得意なのか想像以上の働きをしてくれている。
それに、蟹江も人当たりが良くとても上品な女性なだけに、江崎と一緒にチームを組んで営業に出すと思いの他良い結果を出してくれる。
坂田は少しのんびり系の事務員という雰囲気のせいか新婦受けするようだ。
吉富や蟹江が受付で長時間対応すると困ったことが起きてしまう。
吉富は男の俺から見ても、スーツ姿で現れるとなかなかに落ち着きのある良い男に見える。
ただ単に年を取っているわけでもなさそうだ。フェロモンを無駄に放出している気もするが大人な理解ある男性のように見える。
しかも、顔立ちはそう悪くはなく新婦が吉富に見とれることもしばしば。
蟹江にしても同じことが言える。
蟹江は加奈子とは正反対の女性らしい風貌が男心をくすぐる。
新郎は蟹江に見惚れることもあり、この二人が受付にいるのはあまり好ましくない。
結婚式のプランニングへやって来た恋人達がこの二人が原因で別れることにでもなれば、我が社は結婚ではなく別れのプランニング会社と言われることになりかねない。
それだけは防がなければならない。
「加奈子、昨日のお客はどうなった? 意見があわなかったようだが問題はクリアできたのか?」
「それがね、女性の方は乗り気なんだけど、男性がね・・・・嫌がるのよ。」
どんな問題が起きているかと言うと、それは、俺も経験済みだから男側の意見はよく理解できるが、結婚式で二人の馴れ初めの動画を流すというものだ。
俺もあれだけは未だに結婚式の嫌な思い出として残っている。
女は好きそうだが、男にとっては昔の話をわざわざ映像化して皆の前で流すなど嬉しくもなんともないものだ。