いつかウェディングベル
「江崎! 江崎はいるか?」
思い立ったが吉日だ。俺は芳樹と奈美の成長記録を絶対にDVDに残すんだ。
「何か問題でも?」
「これを今すぐ作ってくれ。」
「これって・・・?」
「俺の息子の芳樹と娘の奈美の成長記録だ。」
「はあ、別に構いませんが。今、俺は他にも抱えている仕事があるんでそれが終わってからで良いですか?」
かなり江崎には嫌な顔をされてしまった。
そして、そんなところへ加奈子がやって来ては俺を蔑んだような目で見ていた。
「透、ここは職場なの。家庭の問題を持ち込まないで。」
「これも仕事だ。請求書を出して貰っても構わない。」
「それで、江崎さん、いつまでに頼まれたの?」
「急いで欲しいって」
確かに俺は急いで欲しいと頼んだが、今、江崎は他にも仕事を抱えて忙しいからと直ぐには出来ないと断った。
俺は仕事を依頼する者なのだ。加奈子にとっては客だ。その客相手にその冷たい態度はないだろう?
「今は結婚式をいくつも抱えて大変なのよ。それは透も知っているでしょう? 江崎さんの動画も人気があって今は時間が足りないくらいなの。なのに、芳樹や奈美の写真なんか職場に持ってこないで。」
「俺も仕事として頼んでいるんだ。それも、そちらの仕事が一段落してからでいいからと。」
「江崎さんにそんな時間はないのよ。」
「じゃ、そういうことで、時間があるなら専務がご自分で成長記録作られてはどうですか?」
仕事として依頼し仕事として引き受けたと思っていたのに、いとも簡単に江崎は俺の依頼を切り捨てた。
加奈子はそれを当然のような態度を俺に示す。
「加奈子はあの子達が可愛くないのか?」
「可愛いわよ。でもね、今、いくつも結婚式のプランニングを契約して貰っているの。それがどんなに大事な取引か分かるわよね?」
そう言われなくとも俺だって十分に理解できる。
最近の加奈子は仕事の鬼で以前のような可愛かった頃が懐かしく思える。