いつかウェディングベル
「美薗、そんな心配なら必要ないのに。何故、一言私に相談してくれなかった?」
「それは・・・・」
「相手の気持ちが分からない間は聞きたくても聞けないはずですよ。特に意識している相手には。日下さんもそうではないのですか?」
日下さんは美薗さんを見ては少し照れたような表情を見せていた。
この二人は傍から見ていてお似合いだ。この二人が持つ雰囲気がとても合っている様に思える。
「私の役目は終わったようですね。この後は日下さんが彼女の為に相談にのって下さい。美薗さんは大事な女性なのでしょう?」
「それは勿論ですよ」
「取引先の令嬢ではなく、彼女だから大事なのですよね? 一人の女として。」
少し急ぎ過ぎたかと思ったが、せっかくの話の流れとこの雰囲気のなかなら二人の気持ちを確認するのもいいかもしれない。
多分、俺の勘は当たっていると思う。二人は想いあっている。男女間の感情があるはずだ。
そう思って俺は日下さんの目を見つめていた。
「勿論です、でも、こんな形で美薗に知られるのは本意ではない。」
「失礼しました。出過ぎたことをしてしまいました。でも、友人として悲しむ彼女を放っておけなかったのです。」
日下さんは気付いたようだ。美薗さんが日下さんを想い悩んでいたことを。
美薗さんが日下さんを見つめる目はただの恋する女の目だ。そして、そんな彼女を見つめる日下さんも同じ目をしている。
きっとこの政略結婚はお互いに愛情のない結婚だと承知していたにも関わらず愛し合ってしまったんだ。
それはめでたいことなのだが、お互いにそれを口に出す切っ掛けが掴めなかったのだろう。
妙な空間が二人を取り巻いている。
言葉を交わさなくてもお互いに見つめ合うその瞳は愛を物語っている。
今日のエスコートはどうやら成功したようだ。
俺は美薗さんの役に立てたのだとホッと胸を撫で下ろしていると、そこへ思いがけない事態へと陥ってしまう人物が現れた。