いつかウェディングベル
「紹介していただけるかしら?」
俺達の前に現れたのは少しお腹が大きくなった加奈子だった。
俺は加奈子の姿を見てかなり動揺したし冷汗が出てしまった。
今日のパーティは俺一人で行くからと加奈子を自宅へ置いてきたはずだ。
美薗さんと日下さんの仲を取り持つための一芝居を打っていたのを加奈子に見られたくなかった俺は加奈子をここへ連れて来なかった。
加奈子が嫉妬して俺達の間に亀裂が入るのを恐れたからだ。
「いつ来たんだ?」
俺は恐る恐る加奈子の機嫌を伺う様に聞いていた。
「あなたが出た後に直ぐよ。準備は出来ていたのよ。」
という事は、俺が美薗さんに近づきダンスをしたのもみんな加奈子に見られていたという事なのか?
一番見られたくないものを加奈子に見られたんだ。
「こちらは、もしかして奥様?」
「そうです。私の妻の加奈子です。」
「はじめまして。妻の加奈子です。」
「私は日下英彦と申します。ご主人と婚約者の美薗が懇意にしてまして私も今後仕事だけでなくプライベートでもお付き合いをお願いしたいと思っています。」
「まあ、そうなんですか。」
加奈子はあまりこういう場での会話に慣れていない。素直にそのまま口に出してしまう加奈子をこの場に置いておくのは危険な気がしてきた。
俺は加奈子の腰に手を回すと二人から離そうと思った。
「加奈子、体調はどうだい? 疲れていないか?」
「あら、私なら大丈夫よ。それより美薗さんのエスコートはどうなったの?」
今、そんな話は必要ないだろう・・・・・。俺達の会話も聞いていたはずだ。何も知らずにそんなセリフを言ったとは言わせないぞ。
「彼女の婚約者の日下さんがいるんだ。俺はちょっと挨拶して踊っていただけだよ。」
「あら、そうなの? それにしてはかなり親密そうだったわ。」
やはり加奈子はかなり怒っていた。
それに、パーティへ着ていくドレスが無いと言いながらも今の加奈子の姿を見ればこの会場で一番の美しい女性に仕上がっている。