いつかウェディングベル
「ねえ、日下さんもそう思いません? この人ったらお腹の大きくなった私に置いてけぼり食らわせたんですよ。酷いと思いませんか?」
こんな場所でそんな話をする必要はないじゃないか。それに、これからどんな風に仕事に関わるか分からない相手に恥をさらすような会話は止めてくれ。
折角、美薗さんと日下さんが良い雰囲気になったと言うのに加奈子はこの二人の仲を壊そうというのか。
これくらいではもうこの二人の仲は大丈夫だとは思うが、感情というのはどう変化するのか分からない。だから、まだ迂闊な事はしたくないのに。
「きっとあなたの体を心配して家に縛りつけたいのでしょう。私だって同じことを考えますよ。大事な妻を他の男の目に晒したくないし、お腹の子にも負担をかけないか心配になりますからね。」
「そうなの?」
日下さん達の仲を取り持ったお礼でもしているつもりなのだろうか。日下さんは俺を見ると軽く肩をすくめた。
家を出る時も加奈子の機嫌の悪さは知っていた。それはパーティへ加奈子を誘わずに美薗さんをエスコートするから不貞腐れていたんだ。
知ってたはずなのにそれでも無視し俺はここへやって来た。
加奈子が俺と美薗さんの関係を疑いたくなるのも当然だったろう。
だから、俺は加奈子の手を取り抱きしめた。
そして耳元で加奈子にだけ聞こえる様に囁いた。
「俺がいかに加奈子を愛しているのかを教えていたんだよ。愛し合う夫婦はどんなに幸せかって。彼女も婚約者の日下さんとそんな関係になりたいそうだから。」
甘く囁くように言うと加奈子は顔を真っ赤にしていた。
こんなセリフは何度となく言ってきたのに。それでも、加奈子は嬉しかったのだろう。
俺に抱きしめられながらとても幸せな表情をしてくれた。この上ない笑顔で俺を見つめながら。
俺はそんな加奈子が愛しい。
これほど愛しいと思える女は他にはいないし、加奈子は俺だけの女だと思っている。
だから、周囲に誰がいようが周りから視線を向けられていようが俺は加奈子にキスせずにはいられなかった。