いつかウェディングベル
翌日、いつも通りに目を覚ます。
朝食は芳樹の好きなスクランブルエッグだ。
ご飯の上に乗せて食べるのが大好きな芳樹。
口いっぱいに頬張って食べている。その顔がとても幸せそうにしている。
こんな顔を見ているのが私にとってはとても幸せだ。
「もっと食べていいのよ。好きでしょ?」
「ママは? 食べて!」
私はいつも芳樹の残飯整理だ。だから残ったものを食べている。
それで十分だ。
「さあ、食べたら行くわよ。芳樹、お手て洗っておいで。」
「はーい! キレイ、キレイだよね♪」
「そうよ、キレイにしようね。」
芳樹の笑顔を見ていると本当に癒されてしまう。
だけど、そんな芳樹の笑顔がだんだん透に見えてくる。
父親似なのは認める。だけど、それ以上に透に見えてくるのは私の心の中に透がいるから。
それが、とても辛くなる。
辛くなるのに透は私の前に現れる。
そう、そして、今日も。
会社へ行くと透はやって来た。
もう、関係ないはずなのに何故やってくるの?
今日もまた商品管理部門へと足を運んで来た透。
余程暇なのね・・・
「その度胸欲しいわね、仕事で。」
「蟹江、君にもその度胸あればいいね。」
「吉富さん、大丈夫。田中さんは俺が養うから会社辞めても良いんだよ♪」
朝からそんなつまらない話で盛り上がらなくても良いのに・・・
毎日、この人たちも飽きないものね。
「江崎さん、無理なこと止めたらどうですか?」
岩下君は相変わらず冷たい表情だ。
「そうそう、吉富さんですら断られたのに。」
坂田さんの一言で、周りの目が一斉に吉富さんへと向いた。
「断られた?」
蟹江さんが苦笑していた。やっぱりと言う顔をしていた。
「さて、仕事だ。仕事をしよう。」
気まずい吉富さんはさっさと自分のデスクへと戻って行く。