いつかウェディングベル

吉富さんからのプロポーズはこれが初めてではない。


これまでも何度となく芳樹の父親になりたいと申し出てくれた。


吉富さんならきっと優しくて良い父親になりそうだ。そして、私を大事にしてくれるだろう。


そんな優しさを何度も頼もしく感じた。だけど、その度に透の顔が私の脳裏を過る。


どうしても、私の心の中の透が吉富さんを拒否してしまう。


透を忘れることができれば吉富さんの胸に飛び込めるのだろうが・・・


私と吉富さんの深刻そうな表情での会話が続く間、透は神妙な面持ちで私たちの様子を見ていた。


私がシングルマザーと言う事実にショックを受け、


そして、子どももろ共捨てられた事実に更にショックを受けていた。


私が、透と別れた後にいったいどんな生活を送っていたのか。


いったいどんな男に騙され子どもを産まされ捨てられたのか。


透は私の過去に黙りを続けられなかったようだ。


会社の為にと選んだ女性がいるにも関わらず透も私の過去には興味があったようだ。


「俺だ。急いで調べて欲しいことがある。商品管理部門の田中加奈子だ。緊急だ!」


私を騙した男を調べるつもりだったのだろうか。


自分の部下に携帯電話で私の調査を指示していた。まさか、その男が自分と知らずに・・・


「男に騙され子どももろ共捨てられるなんて、なんて酷い男なんだ。自分の子を妊娠した女を捨てるなんて。
しかも養育費も何も渡していない? 

加奈子、俺と別れた後に何があった?!」


何も知らないと言うことはとても幸せなこと。


調査の結果それが自分だと分かった時、透はどうするつもり?


知らない方がいいと言うこともあるのだから。


透が私を調査させていることを私が知らない様に。

< 42 / 369 >

この作品をシェア

pagetop