いつかウェディングベル
■私たちは思い出にすぎない
私の療養の為にと透のマンションへと連れて行かれた私と芳樹は、初めて訪れる部屋に緊張は隠せない。
芳樹は大きくて立派な部屋に興奮さえしている。
私は、ここで透が婚約者と過ごしたのではないかと嫉妬してしまいそうであまり心地よいものではなかった。
それでも芳樹の前では平静を装い普段通りの私の姿を見せるのに必死だった。
夕食に出前を頼んでくれた透だが、私はあまり喉を通らない。
どうしても部屋の至る所のものが目に入り気分が良くない。
可愛い小物や明るい色のモノを見つけると婚約者が買い揃えたものではなかろうかと疑ってしまう。
そんな婚約者を感じてしまう部屋では落ち着いてはいられない。
そんな私の気持ちを透に悟られない様に必死に努力している私のことを透はどう感じ取っているのか。
気になることばかりで落ち着かないでいた。
けれど、私とは逆に広くて大きな家に喜んでいた芳樹はお腹いっぱいご飯を食べるとそのまま眠ってしまった。
リビング続きの和室に布団を敷いてもらい芳樹を眠らせた。
「芳樹は疲れたんだろうな、ぐっすり眠っている。」
「そうね。お腹いっぱいご飯食べて広い家に興奮していたから疲れたのよ。」
「加奈子はあまり食べていないね。」
私は最近、再就職の為に節約していたからあまり食事を取れてなくて胃が小さくなったみたい。
食べたくてもあまり食が進まなくなった。
節約は単なる言い訳に過ぎないのだろうけど。
本当は、透を目の前にして緊張しているのもあるし、胸がドキドキしてきていっぱいになって・・・
「少し痩せた?」
透は私の体を舐めるように見回すとリビングの大きなソファーへと私を誘った。
握り締められる手に私の手は震えてしまう。
「少し話をしようか。」
優しく言われると震える手も落ち着きを取り戻す。
そして、肌から伝わる透の熱を感じると透の顔を見れなくなる。