いつかウェディングベル
「ここで一緒に暮らさないか?」
透は私と別れたことを後悔していた。
どんなことがあっても私と別れてはいけなかったと思ったようだ。
けれど、何を言ってももう終わったこと。私は捨てられた後、一人で頑張って芳樹を育てていくと決めた。
一生一人で通すのだと覚悟を決めたのだから。
私の人生に入って来て欲しくない。
もう、決めたのよ。
「今は健康に不安を抱えているからあなたに甘えてお世話になっているだけ。ただ、それだけよ。」
そう言うと、私はソファーから立ち上がり透に背を向けた。
そして芳樹が眠る和室の方へと歩いていくと後ろから透に抱きしめられた。
「放して」
「ダメだ! 俺がこの3年間どんなに辛い思いしたか君には分からないだろう!
辛かったのは君だけじゃないんだ。俺もどんなに君を欲しいと思ったことか。」
「だったらどうして私を捨てたのよ!! どうして私からの電話を拒否したのよ!!
あなたがしたことは結局同じことなのよ。私の気持ちを踏みにじって汚いもののように捨てたのよ!」
悔し涙が止まらない。
あの時の悲しさ虚しさ、込み上げてくる透への思いが溢れそれが涙となって流れてしまう。
「どんなにあなたが欲しかったか。どんなにそばにいて欲しかったか。
一人であの子を産んだとき、どんなに怖かったか分かる?!!」
透の気持ちなんてどうとでも言える。
そんなの私の気を惹こうと適当に話を作れるわ。
でも、私は芳樹を、あの子を産んだという事実がある。
それも一人ぼっちで誰も私を助けてくれる人はいない。
それがどんなに苦しく辛く悲しいことか透には分からないのよ。