いつかウェディングベル
私は自分が捨てられたことばかりを悲しんで透を恨んでいた。
だけど、透の話を聞いてしまった以上は透の立場というものを考えさせられた。
透には透の世界がある。私にはない透が住む世界。
そこに私が足を踏み入りたくても、薄いベールで包まれた世界へは入りたくても入れない。
見えない壁に阻まれてしまう。
そんな透と私は上手くやっていけるとは思えない。
だから、これ以上私たちが深入りするのは良くない。
なのに、
どうしてこの人は私の心を乱すのが上手なのだろう。
私の抑え込もうとする気持ちを引きだしてしまう。
私の心を乱してしまう。
どうして、この人は私の心の中をさらけ出させるのがこんなにも上手なのだろう。
「愛しているんだ」
何度も囁かれる甘い言葉。 どんなにその言葉を夢見てきたか。
夜毎「愛している」と囁かれ透の温もりを感じて目を覚ましたかと思えば、それは、いつも夢に終わった。
朝、目を覚ますと囁いたはずの男はそこにはいない。
私の横にはいつもその男とそっくりな小さな子どもが眠っている。
この子が日に日に父親に似てくると、見る夢もだんだん濃厚になっていく。
そして、夢の中で何度抱かれたことか。
体が欲しがって疼いてしまう。
そんな悲しい夜を何日過ごしてきたか。
こんな私を知られたくない。
この人とは別れなければならないのだから。
やっぱり、透とは再会すべきじゃなかった。
夢と現実は違う。そして、あの時のような小娘でもない。
私はもう子どもじゃないのよ。