いつかウェディングベル
翌朝、目を覚ますと私は透の腕に抱きしめられていた。
透の腕を動かそうとすると、しっかり逃げられない様に抱きしめられる。
まだ眠っているはずなのに無意識のうちにやっているのだろうか。
「透? 起きている?」
「まだ寝てる」
無意識ではなく、明らかに私より先に目が覚めていて私を離そうとしないのだ。
私は芳樹が気になりベッドから降りるのに、透の腕を外そうとしているのに余計にしっかり抱きしめられてしまう。
「まだいいだろう? このままでいてくれ」
透は眠いのか瞼は閉じたまま私を抱きしめて離そうとはしない。
でも、もし芳樹が目を覚ましたら見知らぬ家に泣いてしまう。
怖がらせてしまうかもしれないのに、透の腕にぬくぬくと抱きしめられてはいられない。
力ずくで透の腕を動かしベッドから抜け出ようとすると、今度は透に腕を掴まれてベッドに引き戻されてしまう。
「どこ行く?!」
透は私がどこかへ逃げ出すと思っているのか顔が必死になっていた。
「芳樹のところよ。知らない家で目を覚ましたら怖がってしまうでしょう?」
そう言うと透は思い出したかのように私の腕を離してくれた。
「そうか、悪かったよ。」
「シャワー借りるわね」
「俺も一緒に行く!」
透も私も急いでシャワーを浴びると着替えを済ませ芳樹が眠る和室へと急いだ。
流石に、昨夜のままの恰好では芳樹の所へは行けない。
時間短縮の為にと朝から一緒にシャワーを浴びてしまったが、明るい部屋でお互いの肌を見せ合うのは神経に良くない。
芳樹はまだ眠っていたが、私の心臓がドキドキしたまま静まらないでいた。
「まだ眠っているのか。」
「よかった。夜中も大丈夫だったのね。」
芳樹を一人にして気になっていたものの、透との抱擁に夢中になってしまったなんて情けない母親だわ。
昔の男に少し言い寄られただけで流されてしまうなんて。
でも、私には懐かしい時間のように思えた。
芳樹には悪いけど、私にとっては懐かしい匂いの中で眠れて幸せな時間だった。