いつかウェディングベル

二人とも同時に時間を気にし時計を確認したが、会社へ行く時間にはまだ早すぎる。


昨夜一緒に過ごした間柄とは思えないほどに、目を合わせるとお互いになんとなく気まずさが残る。


「朝ご飯の準備するわね。何か冷蔵庫入っている?」


「いや、朝は家では食べないから買い置きがなくて。どこかで食べて行こう。」


「何でもいいのよ、芳樹には何か食べさせたいわ。冷蔵庫見てもいい?」


透は冷蔵庫のところへ行くとドアを開けるが、やはり透の言う通り冷蔵庫には大したものは何も入っていない。


「玉子と牛乳はあるのね。ねえ、小麦粉はある?」


「そんなものあるわけないだろ。俺、料理はダメなんだよ。」


仕事柄外食が多いのは分かるけども、婚約者の女はいつまでここにいたのかしら?


透には何も食べさせなかったの?


こんな生活ばかりしていては体に良くないわ。いつか、病に倒れてしまう。


「近くにコンビニがあるから買い物してくるよ。何を買ってくればいい?」


透がコンビニで買い物? 以前の透なら想像つくけど、今会社で偉そうにしている重役の一人なのに。


そんな透がコンビニで買い物カゴ下げて買い物するの?


こんなに買い物カゴの似合わない人はいないでしょうね。


「私が行って来るわ。」


「ダメだ! 加奈子は無理したらダメだろう。仕事だって本当は休ませたいのに。」


「仕事へは行くわ。休めるわけないでしょう?」


「だから、買い物くらい俺にさせてくれないか? 芳樹とお前の為にこれくらいさせろよ。」


たかだか買い物の一つくらい大丈夫なのに。


私が昨日倒れたから気を使っているのかしらね?


その割には昨夜は激しかったように思うけど。


でも、透のそんな優しいところは以前と同じね。なんてことないちょっとしたその優しさがとても好きだった。

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