いつかウェディングベル
こんなやり取りは、つい、昔に戻った気分にさせてくれる。
透との時間が大切なものだと感じてしまう。
だけど、これは一時的なものであって永続的なものではない。
透にこれ以上の思いを寄せても無理な話しだしお互いに辛くなるだけ。
どうあがいても透は次期社長の座に就く専務で御曹司という立場にある人で、私とは住む世界が違うし身分も全く違う。
こんな不毛な恋はするものじゃないし、透となんか出会わなければよかった。
今更ながら遅すぎるわね・・・
かといって、芳樹を産んだことは後悔していない。
透と大切な時間を過ごしたから芳樹を授かった。
だから、後悔はしていない。
透とのことは大切な思い出として私の心の中にしまっておく。
それは二度と表には出てこない、透にも気付かれないようにする。
「朝食にしましょう。準備するわね。透は芳樹を見ててくれる?」
最後に少しくらいは親子の時間を与えるべきよね。
透から息子を取り上げることになるのだから。
二人が同じ場所や時間を共有することは二度とないのだから。
それに、
女を感じさせる部屋に居たくない。
あの部屋はあまりにも透が女と過ごした空間を感じてしまう。
それは、婚約破棄した今でさえも嫉妬で狂いそうになる。
こんな私を見ないで。
「なに泣きそうな顔しているんだよ。そんな顔したら芳樹が心配するだろ。」
今、そんなセリフ言われたら透に縋ってしまいたくなる。
そんな気持ちにさせるなんてズルイ!
「加奈子、今、何を考えていた? 俺から離れようなんて思うなよ。」
透には知られたくない思いなのに、どうしても感じさせてしまうのだろうか?
透を必要としている私を。
そばに居たいと思いたくなるこの気持ちを、透は感じているのだろうか?
「加奈子、そんな顔しないでくれよ。」
私がどんな顔をしているのか想像がつかない。
でも、きっと酷い顔をしているんだよね。