いつかウェディングベル

透に抱きしめられる心地よさにどうしても応じてしまう。


こんな弱い自分が嫌いと思いながらも、これまで透を思ってきた年数には勝てない。


透との抱擁を夢見て泣いてきた自分を思い出すとこの腕を突き放せない。


それどころか、

欲しかった透の胸に飛び込んでしまいたくなる。


だから、応えてしまう。


透の甘いキスに。


溺れてしまうと自分を見失うと分かっている。


頭では理解できているけれど、体が透に支配されているようで自分の思い通りにならない。


それが悔しく感じながらも体が悦びを得ている。


悔しいと思う心があれば嬉しく悦んでいる私もいる。


「透、卑怯よ。」


「お前を取り戻すためなら卑怯者にでもなんにでもなる。」


透の私を見つめる瞳は何かを決心したかのような熱さを感じる。


それが本物ならば透を信じたい。


けれど、私達の意思だけではどうにもならないことがあると、就職すると社会へ出ると気付かされることが多い。


私達の関係も私たちの気持ちだけではどうにもならない。


だから、


今、キスしたらもう終わりにしよう?




そう言えばいいのに、その一言が私には言えない。


本当は終わりたくないから言えない。



私だって卑怯者だ。


芳樹の存在を理由に透のそばにいるのだから。


透のキスを欲しがっているのだから。


「これ以上はヤバいよ。止まらなくなる。」


「いいよ、透。」


私の中にある欲望が私の思考回路も体も支配してしまう。


今だけだからと、私は透のシャツのボタンを外していった。


「遅刻しても知らねえぞ。」


「送ってくれるんでしょ?」


欲望に支配されてしまった私は透を何度も受け入れてしまった。


長年の積み重なった気持ちが溢れだしてしまうと、そう簡単にはこの気持ちを止めることが出来なかった。


でも、もう一人の私が言うの。


それも今日で終わりだから、と。


そんな私はまた心の中で涙を流している。
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