いつかウェディングベル
芳樹が目を覚ます前にと私たちは急いで服装を整えた。
そして、何事もなかったかのように朝食準備を始めた。
今日は、透の車で出勤できる分いつもより余裕を持って家を出れる。
こんなにゆとりのある朝の時間を迎えたのは久しぶりのように感じてしまう。
「ベーコンエッグ美味しそうだな。」
「サンドイッチ風にするつもりよ。食べるでしょ?」
「俺、それ好きだよ。」
「芳樹の好物なのよ。パパに似たのかしらね。」
何気なく言ったその言葉に透は顔が赤くなる。
今更なのに我が子だと思うと透はまだ慣れないのだろう。
嬉し恥ずかしといった顔をしている。
「芳樹ね、透に似ているところたくさんあるわよ。強情で傲慢なところなんかね。」
「それは俺に似てるんじゃないよ。」
「でもね、とても思いやりがあって優しい子なの。」
「俺に似て?」
「はいはい。そろそろ芳樹起こしてきてもいいわね。」
芳樹の朝食の準備をしていると透が私の手を握り締めて手の甲にキスをした。
そんな慣れないことされると、今度は私の顔が赤く染まってしまう。
「会社は辞めないで欲しい。 頼む、加奈子。」
何度も退職届を出しては社長の怒りを買うような始末書を書いて、きっと透を何度も不安にさせてしまったんでしょうね。
透は透なりに私のことを考えてくれていた?
でも、それはあくまでも透が私を欲しいと思っていたからよね?
私もこの会社で働けると正直助かる。
転職しようと職探しや芳樹を預かってくれる施設を探したけども、シングルマザーには冷たい世の中だと理解できた。
だから、辞めないよ。辞めたくなんかない。