いつかウェディングベル
朝、いつものように保育施設へ芳樹を預けると商品管理部門へと急いだ。
いつもの見慣れたフロアなのに、新鮮に感じてしまうのは何故だろう。
芳樹の存在が知られてしまいショックで暗黒の世界が広がると思っていたのに。
現実はそうではなかった。
何故かそう感じなかった。
透との一夜がとても素敵で夢にまで見ていた時間を過ごせたことに胸を高鳴らせている。
今、この時間なのに職場にいるのに、それでも、目の前に広がる景色が色づいて見える。
私がどんなに愚かでただの女だったのか、今の自分の感情がその程度の女だと思い知らせる。
あまりの情けなさにため息が出てしまう。
「田中さん! 大丈夫だったの?!!」
いきなりの蟹江さんの言葉に落ち込む暇などないことを教えてもらった。
そうなのだ、私は社長秘書課勤務に変更され、この職場の皆にはかなり心配をかけてしまった。
「DV遭わなかったのか?! 昨日警察に連絡したんだよ!」
江崎さんが悲しい顔をして私の手を握り締めた。
すると、吉富さんがその手を振り払い私の肩を引き寄せて江崎さんから引き離してくれた。
「大丈夫だったか? 心配したよ、田中。」
「吉富さんは昨日かなり落ち着きなかったですよね。」
「坂田、俺より田中の心配をしろ。」
吉富さんにはかなり心配をかけたと思う。
吉富さんには何と詫びたらいいのだろうかと悩んでしまうほどに。
「怪我はないのか? 田中君。」
「部長も昨日はかなり心配して仕事が手に付きませんでしたよね?」
課長はしっかり部長の味方についていた。
私の心配は口先だけで自分らの保身が気になっていたはず・・・
まあ、部長も課長も悪い人ではないのだけど。
ただ、何故私が秘書課勤務に異動という話でDVや警察って話になっているのか。
その辺りの経緯が私には理解できていない。
それにいったいDVってなんなの?