いつかウェディングベル
「ねえ、田中さん。きっと専務は相談に乗ってくれるはずよ。昨日の様子だとDVには理解があるわよ。
だから、洗いざらい喋って相談しちゃいなさいよ!」
蟹江さんは真剣な顔をして私にそう言うが、極悪非道の張本人に相談しろというのはどうかと思うが・・・
何も知らないと言うことは幸せなことだと思った。
私も職場がこんな状態になっているとは知らないままが良かったのかもしれない。
「田中、本当に大丈夫なのか? これだけ皆お前の心配しているんだ。
それに、きっと専務も味方になってくれるよ。」
吉富さんには感謝しているけども、私と透のことはこれ以上構わないで欲しいって言うのが正直な気持ちですよ。
「ああ、田中さん! 無事戻って来てくれて俺は嬉しいよ! また、一緒に仕事がんばろうね!」
「はい、どうどうどう・・・」
岩下君が江崎さんをどこかへと連れて行った。
そんな二人の様子を見て皆はそれぞれのデスクへと戻って行った。
そして、さっきまでの騒ぎが嘘のように仕事モードへと切り替わった。
皆はそれなりに心配はしてくれているが、どうも、お祭り騒ぎが好きで興味本位の部分が大きいような気もする。
一部の人を覗いては。
吉富さんは私をとても気にかけてくれる。
正確には私だけでなく芳樹のこともだ。
実の父親の透でさえまだ芳樹の存在に戸惑っているところがあるが、吉富さんは芳樹を我が子にしたいと申し出るほど芳樹の存在を一番に考えてくれる。
生みの親より育ての親ともいうが、こういう場合はどうなるのだろうか。
透は私とヨリを戻したがっているが芳樹の存在にはまだ躊躇している部分がある。
だけど、吉富さんは私や芳樹のことを守りたいとハッキリ言った。私達を捨てた男がいることを承知の上で。
吉富さんの真剣な目に怖いとさえ感じる時もある。
だけど、やっぱり吉富さんを受け入れられない。