いつかウェディングベル
この日はいつも通りに商品管理部門で仕事をした私。
部長をはじめ周りの皆も何の違和感もなく通常通りに業務を熟したが、
皆は、私が秘書課勤務に変更になったことを既に忘れているのではないだろうか?
私は専務である透に直談判して通常業務へ戻ることを告げたのだけど、皆は何も知らないはずなのに・・・
あまり、この部署ではその手のことは考えない様にしよう。
考えても意味のないことのようだ。
もともとお祭り騒ぎのような職場なのだから気にも留めていないのだろう、私が秘書課勤務なのは。
部長も何も言わないから放置していても大丈夫そうだ。
説明するのも面倒だからこのままで十分だろう・・・
そして、時間がやってくると皆それぞれ帰宅していく。
何事もなかったかのように。
毎日、いつも見ている光景と何ら変わりはない。
朝はあれだけDVだのなんだのと大騒ぎした連中なのに、今はすっかり忘れているようだ。
「田中さん! 俺が一緒に帰ってあげますよ。もしもに備えてね!」
一人だけまだ今朝の余韻に浸っている男がいた。
「江崎さん、どうどうどう・・・」
いつもと同じ光景に私もいつも通りに職場から帰ることができる。
だから、デスクからバックを取り出してロッカールームで着替えて保育施設へと芳樹を迎えに行く。
するとそこには吉富さんの姿があった。まさか、こんな所で待ち伏せされているとは思いもよらなかった。
「君を捨てた男っていうのは本当に何も起きていない?大丈夫なのか?」
吉富さんは極悪非道の男が透とは知らないはず。だから心配なのだと思う。
「専務は捨てたのではなくて別れたと言った。本当なのか?」
「別れた? 専務がそう言ったの?」
どういうつもりで透はそんなことを吉富さんに話したの?
「俺は期待してもいいのかな?」
吉富さんはきっと私が何度断っても、同じ職場にいる以上私が結婚しない以上私達母子を守ろうとするのだろう。
それほど思われるのは嬉しいことだけど、無駄な期待は持たせない方がいい。
だから、
「ごめんなさい。」
そう言うしかない。