いつかウェディングベル
ずっとこんな調子でいる私が吉富さんには心配なのだろう。
「みんながみんな、そんな酷い男とは限らないよ。
たまには息抜きに外の男を見るのも良いかもしれないよ。」
「ありがとう、吉富さん。」
気晴らしに男の人と遊べってことかしら?
多分、そう言う意味じゃないわね。吉富さんの言いたいことはなんとなく分かる。
「口説いているんだよ。君を。 分かった?」
優しい声でそんなこと言われると本気にしますよ?
特に、真剣に交際の申し込みをした経験のある人からは。
「冗談ですよね?」
「ああ、冗談だよ。」
そんなセリフは冗談には思えない。
きっと、真剣に答えを求められている。
「冗談」と言うその瞳からは熱く物語るものがある。
思わず吉富さんから目を逸らした。
すると、会議室のドアが開く音がした。
「待たせたね、吉富君。」
どこかで聞いた覚えのある声がした。
会議室へと入ってくるその姿を見て私の体が硬直してしまった。
専務とは、私を捨てたあの男だった。
柿崎透はこの会社の専務だったんだ。
私はそんなことも知らずにこの会社で仕事をしていたなんて。
透は私の存在を知っていたの?
知って、この打ち合わせのメンバーに指名したの?
そんなはずはない。それは自惚れだわ。
透は私に会いたくなかったはず。だって、透は他の女を婚約者として選んだのだから。