その夜、ギターは、ひそやかに泣く
すずは、体のどこかがチリチリするように感じて、顔をしかめた。
目の前のその人が、なんだか、いやだ。
マーティンは、すずの大好きなギターだ。
すずの身長がもう少し伸びたら、ぴったり似合うようになるはずなのだ。
なのに、今、マーティンを構えている、この人。
なんてお似合いなんだろう。
と。
その人が、ゆっくりと、すずを見た。
そして、にっこり笑った。
その人の右手が動き出した。
ラの音だ。
ギターが鳴らせる、いちばん低いラ。
すずの、走った後の心臓みたいに、弾んだ速いテンポ。
ギターの旋律が動いた。
かげりのあるフレーズだ。