その夜、ギターは、ひそやかに泣く
人の声で歌うのをやめてからも、その人は、マーティンを歌わせ続けた。
ぶるぶる、びりびりと、空気をふるわせて。
おさえきれない気持ちのままに、高い音の弦をかきむしる。
きっちり一本一本を弾くのではなくて、ピックはときどき隣の弦まで引っかく。
音階のない音が、かすれたひびきをあげる。
その人の左手の指が、弦を引っ張って歪めたり強く叩いたりすると、マーティンの鳴らす高音は、急カーブにねじれる。