みんなの冷蔵庫(仮)1
「すぐ戻る。食事並べといてくれ。あと、シグマにはリンゴジュースも出してやれ」


佐田さんの返事を背中で聞きながら、私は京極に引きずられるように廊下を歩く。
厨房を背にしてエントランスより奧の、廊下に面していくつか並ぶ一番手前の部屋のドアを開けると、京極はほうり込むように私をその中に入れ、手を離した。


「佐田を好きなくせに、僕の一言なんかで疑うのか? 好きなら、疑うな」


怒っているのかと思うくらい、京極の声は冷たく響いた。

濡れたように艶やかな黒の瞳から感情は読みとれず、ただ真っ直ぐにこちらを見てくるので、私は堪らず視線を反らした。


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