みんなの冷蔵庫(仮)1
「しないよ」


なんだか楽しくなってきて、私も手を振り返しながら笑って言う。

さっき私がドキドキするなんて男慣れしてないのがバレバレな事を言ったから、私をからかっているのかもしれない。

でも、私を気遣ってくれているのは伝わってきて、嬉しくなった。


「そっか。俺はしてるよ。今、ドキドキしてる」

「え……」


曇りのない、ビー玉みたいに丸くて綺麗な瞳に、ぽかんと口を開けた私の顔が映っている。

これから生き物を入れるって事にドキドキしてるって意味なんだ。
冷蔵庫にドキドキしてるって意味なんだ。
そう、思おうとするんだけど。

やっぱりそううまくはいかなくて、動揺して振っていた手の動きを止めると、シグマの指は振り子の動きをしたまま離れた。


「一緒に頑張ろう」


空になった手をゆっくり下ろし、シグマは顔の幅が縦に縮むんじゃないかと思う程口角を上げ、目尻を下げて微笑んだ。


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