みんなの冷蔵庫(仮)1
「キス、して」


小さな声なのに、唐突に紡がれた途端にそこら中に響き渡るような錯覚。

シグマはまるで木の上から降りられなくなった猫のように、ただただ私に救いを求めるような、頼りない目で見上げてきた。


「だ……め?」


また目を閉じ、荒い呼吸を繰り返す。
私の腕から離れた手が、力無くだらりと落ちた。

だめなんて言えない。

そんな事言ったら、シグマが消えてしまいそうで、言えない。

なぜ今キスなのかとか、考えたりできないくらい頭は働かなくて、私自身も泣き過ぎで酸欠になりながら、小刻みに震える指先でシグマの前髪に触れた。


「くららちゃん」


シグマがうわごとのように言った時、私の顔はシグマにゆっくり近付き

私の唇は

シグマの微かに震える唇の端と

そのすぐ横の頬に、触れた。


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