みんなの冷蔵庫(仮)1
「そうだな。敵の陣地はあまり好きじゃないし」

「証拠を消されるかもしれません」

「証拠なんていらないよ。警察じゃないんだ。金を出した奴の名前が分かればそれでいい」


佐田は小さく息を吐き、同時に肩を落とした。


「話術は得意ではないので、いざとなったら助けて下さいよ」


そう言うと、エレベーターホールに向かって大股で歩き出す。


野崎ちよみ
どんな女だろう。

使用人達に特に忠誠心のようなものがない事は、父も僕もよく分かっている。

そして、それを求めてもいない。

彼らとて、ただの仕事、職業の一種として掃除や洗濯、庭の手入れ、食事の支度をしているだけで、そこに何の感情もないに違いない。

長く勤める者も多くはないし、入れ代わりはよくあったと思う。


「ヤクザの事務所だったりしてな」


佐田の後ろに続いてエレベーターに乗り込み、八階のボタンを押す佐田の背中に言う。


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