みんなの冷蔵庫(仮)1
佐田は苦虫をかみつぶしたような顔をして振り返る。


「縁起でもない事言わないでもらえます? ただでさえ野崎さんは……」


何かを言いかけて口ごもった。
なんだそれ。

野崎さんは、何だ。
気になる言い方だ。


「何を隠してる?」


サッと前を向いてしまった佐田の後ろ頭に問い掛けるが、聞こえないかのように振り向かない。

数秒後に扉が開き、何事もなかったかのような顔で振り返る。


「着きました」


かなり気になる言い方だったが、とりあえず時間もないしエレベーターを降りた。

ドアが等間隔に五つ並んでいる。
その通路に出ると、僕の胸より少し下くらいの高さの塀が続き、見下ろすとさっきまで佐田が立っていた辺りがはっきりと見える。

なるほど。
あそこからその野崎ちよみが部屋に入るところを見れば、どこに消えたのかわかる。


「一番奥の部屋です」


言いながら、佐田はもう数メートル先を歩いて行った。


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