みんなの冷蔵庫(仮)1
「トキちゃん」


野崎ちよみは怯える様子もなく、真っ直ぐに僕を見上げてきて、ためらいもなくはっきりと言った。


「誰だそれ」


いきなり出た「トキちゃん」という名前に戸惑う。
僕に近付いてきたり、父を消し去ったりしたのだから、てっきり知った人物が関係しているのだと思い込んでいた。

トキちゃん……そんな名前、親戚や会社絡みの人間の中にいただろうか。


「はぁ? 誰だって言うから名前を言ってんのに、それをまた誰だとか言われても困るんですけど」


野崎ちよみは、なんともこちらの神経を逆なでする口調で睨み付けてきた。

僕が壁に着いた手を離し、わなわなと怒りにうち震えていると、佐田がスッと前に出て僕らの間に割り込んできた。


「ここは誰の部屋?」


てっきり脅しは僕に向いていないから、佐田がここぞとばかりに出てきたのかと思ったら、優しい声で野崎ちよみに問い掛ける。

なぜこんな生意気な女に、そんな優しい声を出す必要がある?


「トキちゃん」


彼女はまた同じ名前を口にした。


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