カフェには黒豹と王子様がいます
 ……こんなにつらい時に、優しくしないで。

 オランジェットオペラの甘さの中に入っているオレンジピールが酸っぱくて泣ける。

 ベイクドチーズケーキのとろりとしたチーズが、切なくて泣ける。

 香り豊かなコーヒームースの上にかかったカラメルが苦くて泣ける。

 コーヒーの癒しの香りが、マスターの気持ちが、うれしくて泣ける。

 こんな風に私に癒しの時間を与えてくれた豊川くんの思いが……泣ける。

 豊川くんは、時々入ってきて、私の頭をなでては、フロアに戻って行く。


 しっかりしなくちゃ、私。

 コーヒーとケーキを食べ終わり、泣きはらして重くなった瞼を少し閉じていると、頬に柔らかい感触があった。

 驚いてそっちを見ると、豊川くんの顔があった。

「と、豊川くん!」

「もう見てられないです。小野田さんのせいですよね?今西口さんが泣いてるのって!」

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