カフェには黒豹と王子様がいます
 シュガーの散歩中のマスターだった。

 めちゃくちゃに走ったつもりだったのに、結構店の近くに来ていたらしい。
 
 マスターは俺の横に座った。

 なんとなく状況を理解してくれた。

「手がかわいそうだよ。ケーキを作る手は、大事にしなくちゃ」


 今、優しい言葉をかけるなよ……マスター。

 涙が出るだろ?

 頭、なでるなって。

 子供じゃないんだから。 


「小野田くん、本気で、フランスに行く気ないかい?」

 フランス……。

「いつもいつも、頑張らなくていいんだよ。たまには逃げたっていいじゃないか」

「……逃げて……行くとこじゃないっしょ」

「あはは そうだね。じゃあ、逃げるんじゃなくて、前進するために行くってのはどうかな?」

< 358 / 443 >

この作品をシェア

pagetop