カフェには黒豹と王子様がいます
 私は注文を聞くのも忘れて、裏に入った。

「おい、西口!どうした!注文聞いてこなかったのか?」

 小野田先輩の声も頭に入らない。


 そのあと響く、コーヒーカップが割れる音。

 裏に、泣きながら走ってくる竹本さん。

「あ、あんた、こんなところで何やってんのよ」

 裏でしゃがみこんで、立つこともできない私。

 涙でぐちゃぐちゃの竹本さん。

 竹本さんがなぜ泣いているのか理解するまで時間がかかった。

 そうだ、あの人は竹本さんの意中の彼の「彼女」……。

 もう頭が混乱して、フロアに戻ることもできず、帰ることもできず、そこにずっとしゃがんでいた。

 さすがに竹本さんはそういうわけにもいかず、ずっと厨房で一言もしゃべらずに仕事をしていた。

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