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短くなったタバコを地面に押し潰す。
残りの煙を吐き捨て、沙世さんの事を思い出した。
沙世さんは俺の母親と性格が真逆だったらしく、20歳から夜の仕事に飛び込んだらしい。
そんな沙世さんは俺の母をたった一人の大切な親友だと言っていた。
母が亡くなった時、荒れ果てていた俺を、沙世さんは本気で俺を怒鳴りつけたことを今でもよく覚えている。
初めて俺を本気で怒鳴った人。
お袋じゃなく、生まれて初めて人から怒鳴られたのが沙世さんだった。
当時はなんでお前に言われなきゃいけねーんだよって思ってたけど、沙世さんの涙を見て現実に引き戻されたような感覚に襲われた。
目にいっぱい涙をためて、″大切にしてあげてって言ったでしょ″そう泣きながら本気で怒鳴られた事を思い出す。
だけどそんな俺を沙世さんは近くで見守り続けてくれた。
だから今となっては母親代わりみたいなもん。
その母の死後、少しの間は夜の仕事を遠のいていたみたいだけど、この仕事しか出来ないと言っていた沙世さんは今では何店舗を持つママにまでもなっている。
多分きっとこの人の影響が強かったのだろう。
俺が夜の店に入り込んだのも。
過去の記憶を探ると同時に、フッと短く息を吐き、俺は立ち上がり夜空を見上げた。
多分、あの人が居なかったら俺はもっともっと居場所をなくしてたんだろうと―――…