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「なに、これ」


サラサラ揺れる燻んだ赤い液体がグラスの中を埋め尽くす。

グラスを斜めにして見つめる俺に、


「トマトジュースだけど」


そう言って沙世さんは口角を上げた。

つか、トマトって…


「俺、トマトジュース好きじゃないんすけど」

「氷いれてるから濃厚さはまだマシよ」

「は?そう言う問題じゃなくね?いらねーし」

「ダメ、飲んで。荒れた胃の粘膜を修正してくれるし肝臓の働きを助けてくれるの」

「なんだよ、それ。母親みてーな事すんなよ」

「ある意味、あなたの母親だけど。ビールでも出てくると思った?そんな調子で出せるわけないじゃない」


まぁ、ある意味母親と言うのは間違いない。

沙世さんはため息混じりでそう言って俺を覗き込んだ。

グラスを傾けてカラカラ氷の音をたてる俺は渋々グラスに口を付けて一口飲む。


「まずっ、」


氷の所為か見た目はサラサラして飲みやすそうに見えたものの、トマトの濃厚さに更に気分が悪くなる。

つか普通に濃厚だしよ。

思わず吐き出した言葉とともに顔を顰めると、沙世さんは面白おかしくフッと鼻で笑った。


「それ飲んだら水だしてあげるから」

「てか俺、ここに罰ゲームしに来たんじゃねーんだけど」

「こんなのが罰ゲームだったら、あなたの身体の方が罰ゲーム状態だと思うけど?」


″違う?″

付け加える様にそう言った沙世さんから、思わず視線を逸らし、グラスの氷をカラカラと揺らした。
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