Domain
「沙世さんは凄いっすね。何店舗も経営して」
「だって私これしか出来ないもの。17歳で娘を産んでるし、この道しかね」
苦笑いする沙世さんは、珈琲を口に含むと、俺の前にもアイス珈琲を置いた。
「あー…そうだっけ。旦那はまだ居んの?」
「はぁ!?何それ、失礼ね!居るわよちゃんと。もしかして離婚してると思ったわけ?」
「まぁ…。葬儀以来見てねーし」
フッと鼻で笑う俺に沙世さんは頬を膨らませてため息を吐く。
「あなた達、親子、本当に失礼よ」
「…親子?」
タバコを咥えた俺は小さく首を傾げる。
「百合香も言ってたから。17歳だったって事もあるけど絶対に離婚するから辞めなってね」
「へー…」
「なのに…私じゃなくて百合香が離婚したんだけど。ほんと衝撃的だったわ」
「……」
「だけど翔くんがここまで立派になるとは思わなかった。本当にどうしようもなくて手がつけられなかったもの。百合香…相当苦しんでたわよ」
「別に立派とかじゃねーし。ただの償い」
「それで償ってるつもり?遅いわよ」
思い出したかのように沙世さんは、表情を崩しグラスに口につけた。
過去の記憶が舞い戻る度に、後悔する。
どれだけこの人に、説教くらった事か。
それ程、お袋を大事に…そして大切に思ってきたんだろうか。
考えてみれば、それを俺が壊したようなもんだ。
何もかも壊したのは、俺。