Domain

「沙世さんは凄いっすね。何店舗も経営して」

「だって私これしか出来ないもの。17歳で娘を産んでるし、この道しかね」


苦笑いする沙世さんは、珈琲を口に含むと、俺の前にもアイス珈琲を置いた。


「あー…そうだっけ。旦那はまだ居んの?」

「はぁ!?何それ、失礼ね!居るわよちゃんと。もしかして離婚してると思ったわけ?」

「まぁ…。葬儀以来見てねーし」


フッと鼻で笑う俺に沙世さんは頬を膨らませてため息を吐く。


「あなた達、親子、本当に失礼よ」

「…親子?」


タバコを咥えた俺は小さく首を傾げる。


「百合香も言ってたから。17歳だったって事もあるけど絶対に離婚するから辞めなってね」

「へー…」

「なのに…私じゃなくて百合香が離婚したんだけど。ほんと衝撃的だったわ」

「……」

「だけど翔くんがここまで立派になるとは思わなかった。本当にどうしようもなくて手がつけられなかったもの。百合香…相当苦しんでたわよ」

「別に立派とかじゃねーし。ただの償い」

「それで償ってるつもり?遅いわよ」


思い出したかのように沙世さんは、表情を崩しグラスに口につけた。

過去の記憶が舞い戻る度に、後悔する。

どれだけこの人に、説教くらった事か。


それ程、お袋を大事に…そして大切に思ってきたんだろうか。

考えてみれば、それを俺が壊したようなもんだ。

何もかも壊したのは、俺。
< 118 / 343 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop