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「ま、でも安心した。一度はどーなる事かと思ったけど」
「……」
「翔くん私の事、全て断ったから。…生活の面でね」
「ま、沙世さんの生活もあったからね」
「別に一人の息子くらい平気よ。今ではもうすっかり大丈夫そうだけど」
別に大丈夫なんかじゃねーんだけどな。
ただ必死になってるだけ。
そうなる事で、過去を消そうとしてた。
「後悔してても何もねーって分かってるけど、今でもずっと後悔してるよ、俺は…」
だけど過去を消そうとした分、後悔が押し寄せる。
複雑な絡み合いが、頭の中を今でも支配する。
「それは私も同じだけど。親友としてダメだよね。忙しくて会えなかったから…。ねぇ、百合香のお墓に行ってないでしょ?」
ジッと見つめて来る沙世さんに、「あー…」と小さく語尾を伸ばす。
「それこそ困った息子だわ。ちゃんと行ってあげてよ」
「そのうち…」
「その内じゃ困るんだけど。何であなたが行かずに、あなたの父親が来るのか分かんないんだもん。百合香可哀そうよ」
「…父親?」
思わずその言葉に、タバコを咥えたまま沙世さんを目で捉える挙句、その言葉に頭の中が一瞬、真っ白になった。
そんな沙世さんは俺に視線を合わせる事なく、グラスを揺らすアイス珈琲をジッと見つめ表情を少し崩した。