Domain

「ま、でも安心した。一度はどーなる事かと思ったけど」

「……」

「翔くん私の事、全て断ったから。…生活の面でね」

「ま、沙世さんの生活もあったからね」

「別に一人の息子くらい平気よ。今ではもうすっかり大丈夫そうだけど」


別に大丈夫なんかじゃねーんだけどな。

ただ必死になってるだけ。

そうなる事で、過去を消そうとしてた。


「後悔してても何もねーって分かってるけど、今でもずっと後悔してるよ、俺は…」


だけど過去を消そうとした分、後悔が押し寄せる。

複雑な絡み合いが、頭の中を今でも支配する。


「それは私も同じだけど。親友としてダメだよね。忙しくて会えなかったから…。ねぇ、百合香のお墓に行ってないでしょ?」


ジッと見つめて来る沙世さんに、「あー…」と小さく語尾を伸ばす。


「それこそ困った息子だわ。ちゃんと行ってあげてよ」

「そのうち…」

「その内じゃ困るんだけど。何であなたが行かずに、あなたの父親が来るのか分かんないんだもん。百合香可哀そうよ」

「…父親?」


思わずその言葉に、タバコを咥えたまま沙世さんを目で捉える挙句、その言葉に頭の中が一瞬、真っ白になった。

そんな沙世さんは俺に視線を合わせる事なく、グラスを揺らすアイス珈琲をジッと見つめ表情を少し崩した。
< 119 / 343 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop